介護施設がAI活用を考えるときは、ケアそのものではなく、毎日繰り返している記録作成やシフト調整の負担を減らすところから始めると、限られた人員でも検証しやすくなります。介護記録の下書き作成や申し送りメモの整理ではAIを補助に使えますが、利用者の状態判断やケアの意思決定とは明確に分け、個人情報を含む入力範囲を絞って始める必要があります。AIの出力は完成品ではなく、担当者が確認するための初稿として扱うのが基本です。
最終更新日: 2026-09-02
介護施設で最初にAIを試しやすい3つの業務
- 音声メモや箇条書きから介護記録・ケア記録の文章を整える下書き作成
- 希望休や資格保有者の配置条件を踏まえたシフト調整のたたき台作成
- 申し送り・引き継ぎ内容を要約し、次の勤務者向けに整理する
候補を複数同時に進めると、何が効果を生んだのか分かりにくくなります。まずひとつ選び、現在の作業手順と所要時間を記録してから、同じ条件でAIを使います。業種を問わない生成AIの活用例は中小企業の生成AI活用例 業務別の使いどころでも紹介しています。
導入を4段階に分ける
1. 現行業務を記録する
誰が、いつ、何を見て記録・シフトを作成し、例外が出たら誰へ相談するかを書き出します。導入前の手順が見えていないと、導入後に確認作業が増えたか減ったかを比べられません。
2. 入力と出力の例をそろえる
整った記録文の例だけでなく、情報が不足している例、判断に迷う言い回しの例も用意します。AIには不明点を推測させず、「不足している項目」として返す指示を入れておくと、記録の信頼性を保ちやすくなります。
3. 限定した範囲で試す
1つのユニットや1つのシフトなど、範囲を絞って試します。出力の採用、修正、未使用を記録し、使われなかった場合は精度だけでなく、入力の手間や操作の分かりやすさも見直します。
4. 手順書と確認者を決める
使い方が固まったら、入力してよい情報、確認項目、困ったときの相談先を1枚にまとめます。夜勤帯やパート職員など、担当者が変わっても同じ基準で運用できる状態を目指します。
介護施設で外せない確認事項
利用者の氏名や要介護度、健康状態などの個人情報を安易に入力せず、利用するサービスの保存範囲とデータの取り扱いを事前に確認します。ケアの緊急性や医療的判断をAIに判定させず、あらかじめ定めた連絡先や手順へつなぎます。個人情報の取り扱いは、個人情報保護委員会が公表する最新のガイドラインもあわせて確認してください。
| 確認項目 | 運用ルールの例 |
|---|---|
| 入力情報 | 公開情報、施設内共有情報、利用者の個人情報に分けて可否を決める |
| 最終確認 | 記録の提出前、シフトの確定前は必ず担当者が原資料と照合する |
| 記録の保存 | 使った版、修正内容、確認者を残す |
| 停止条件 | 誤りが続く場合や情報が不足する場合は既存の紙・システム運用へ戻す |
介護記録でAIを使うときの注意点
介護記録は運営基準に基づく保存文書であり、事実と異なる内容が紛れ込むことは避けなければなりません。音声入力を経由する場合は、褥瘡やバイタルなどの専門用語が誤変換されやすいため、確定前に必ず担当者が読み合わせる工程を残します。また、AIに要約させた文章であっても、誰が記録し誰が確認したかが分かるよう、既存の記録様式に沿った運用を崩さないことが重要です。
シフト作成でAIを使うときの注意点
シフト案の作成では、夜勤専従者や資格保有者の配置基準、休憩・勤務間インターバルなど、労務上守るべき条件をAIに任せきりにせず、最終的な確定は必ず人が行います。AIが出したたたき台をもとに、条件を満たしているかのチェックリストを用意しておくと、確認漏れを防ぎやすくなります。急な欠勤対応など判断が絡む調整は、AIに一次案を作らせつつ、決定は現場責任者が行う分担にすると運用しやすくなります。
効果は作業単位で測る
記録作成にかかる時間、シフト調整の作業時間、修正が必要になった箇所を記録します。利用者の安全とケアの質を効率より優先し、導入後1〜2週間で最初の振り返りを行います。期待した短縮がない場合は、対象業務、入力例、確認工程のどこに負担が残っているかを見直します。
介護分野で使える公的な導入支援制度
介護分野では、記録業務やシフト作成を含む生産性向上を目的に、ICT機器や介護ソフトの導入を支援する公的な制度が用意されています。対象要件や年度ごとの公募内容は変わるため、必ず一次情報を確認してから検討してください。
| 制度・情報源 | 概要 |
|---|---|
| 介護テクノロジーの利用促進(厚生労働省) | ICT・介護ロボット活用による生産性向上の考え方や導入支援事業の情報を掲載。詳細は厚生労働省の公式ページで確認できます |
| 介護分野の生産性向上(厚生労働省) | 記録の効率化や間接業務の削減に関する取り組み事例・お知らせを継続的に公表。厚生労働省の公式ページを参照してください |
| 介護ロボット関連情報(WAM/福祉医療機構) | 介護ロボット・ICT導入に関する相談窓口や事例を紹介。WAMの公式ページで最新情報を確認できます |
費用負担を軽減する制度全般の考え方は「AI導入で使える補助金と申請時の注意点」でも解説しています。介護向けの制度と併せて対象経費や申請時期を確認すると、資金計画を立てやすくなります。
外部支援を使うときの見方
支援会社には、ツールの機能だけでなく、施設の現行の記録・シフト運用をどのように整理するか、試行後に何を測るかを質問します。記録様式や勤務体制は施設ごとに異なるため、自施設の運用に合わせてカスタマイズできるか、導入後のサポート範囲も確認しておくと導入後のつまずきを減らせます。支援先を比較する視点はAI導入支援会社を比較するときの確認事項にまとめています。
明日から始めるチェックリスト
- 記録作成かシフト調整のどちらか、繰り返しの多い業務をひとつ選ぶ
- 現在の所要時間と確認者を記録する
- 入力してよい情報といけない情報を決める
- 過去の記録・シフト例で出力を試し、人が修正する
- 1〜2週間後に時間と修正内容を振り返る
社内ルールとセットで進める
記録やシフトにAIを使う範囲が広がるほど、入力禁止情報や確認フローを明文化したルールが必要になります。全社的な生成AI活用のガイドラインの作り方は生成AI社内ガイドラインの作り方で解説しています。初めてAI導入を検討する場合は、業務の棚卸しから始める中小企業のAI導入の進め方 失敗しない最初の一歩もあわせて確認しておくと、対象業務や確認者を具体化しやすくなります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 利用者の個人情報を含む記録をAIに入力してもよいですか。
A. 氏名や要介護度など個人を特定できる情報は原則入力せず、まずは定型的な文章の整形など、個人情報を含まない範囲から試すのが安全な進め方です。入力が必要な場合は、利用するサービスのデータ取り扱い設定を必ず確認してください。
Q2. AIが作成した記録やシフト案をそのまま確定してよいですか。
A. いいえ。介護記録は保存義務のある文書であり、シフトは労務上の基準に関わるため、AIの出力はあくまで下書きとして扱い、必ず担当者が事実関係と基準への適合を確認してから確定してください。
Q3. 小規模な施設や職員数が少ない場合でも導入する意味はありますか。
A. あります。むしろ人員に余裕がない施設ほど、記録やシフト作成にかかる時間を短縮できれば直接ケアに充てる時間を確保しやすくなります。まずは1つの業務、1つのユニットなど小さな範囲から試すことをおすすめします。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定ツールの導入効果や公的制度の採択を保証するものではありません。導入効果は各施設の運用体制により異なります。公的支援制度の対象要件・公募内容は変更される場合があるため、必ず公式サイトで最新情報をご確認ください。個別の状況に応じたご相談はお問い合わせください。