AI導入の稟議で必ず聞かれるのが「で、いくら得するのか」です。ところが効果の多くは「作業時間が減る」という形で出るため、金額に置き換える手順を決めておかないと議論が進みません。この記事では、費用対効果(ROI)の計算式と、試算表に並べる項目を整理します。数字は自社で計測した値を入れる前提で、ここでは相場や効果の目安を示しません。
最終更新日: 2026-09-11
まず使う3つの式
特別な指標は要りません。次の3つで足ります。
- 年間の削減額 = 対象業務の月間件数 × 1件あたりの短縮時間(時間) × 人件費単価(円/時間) × 12
- 年間の総費用 = 初期費用 + 月額費用 × 12 + 社内工数(時間 × 人件費単価)
- ROI = (年間の削減額 − 年間の総費用) ÷ 年間の総費用 × 100 (%)
回収期間を見たい場合は、回収期間(月) = 初期費用 ÷ (月間の削減額 − 月額費用) を使います。分母が0以下になる場合、その前提では回収できないという意味になります。
前提の置き方(ここを架空にしない)
式そのものより、入れる数字をどう決めるかが結果を左右します。次の4項目は、推測ではなく自社で確認できる値を使ってください。
| 前提 | どこから取るか | やってはいけないこと |
|---|---|---|
| 対象業務の件数 | 問い合わせ管理・受注台帳・記録システムの実件数(直近3か月) | 「たぶん月100件くらい」で置く |
| 1件あたりの所要時間 | 担当者に2週間だけ実測してもらう。開始・終了の時刻を記録する | ベンダー資料の短縮率をそのまま当てはめる |
| 人件費単価 | 自社の給与・賞与・法定福利費を含む年間人件費 ÷ 年間労働時間 | 時給だけで計算して法定福利費を落とす |
| 社内工数 | 導入担当者・確認者の想定時間。教育と初期設定を含める | ツール料金だけを費用として扱う |
短縮時間は、導入前に測った値を「そのまま」使わないでください。実際には確認作業が残るため、削減できるのは所要時間の一部です。試算では「短縮時間 = 現状の所要時間 × 削減率」とし、削減率を控えめ・中位・強気の3通りで並べるほうが、意思決定の材料になります。
試算表テンプレ(項目の並べ方)
表計算ソフトに次の並びで作ると、そのまま稟議の別紙になります。前提を上に、計算結果を下に置くのが読みやすい形です。
| 区分 | 項目 | 入れる値 |
|---|---|---|
| 前提 | 対象業務名 | 例: 問い合わせメールの一次返信 |
| 前提 | 月間件数 | 実測値 |
| 前提 | 1件あたり所要時間(分) | 実測値 |
| 前提 | 削減率(控えめ/中位/強気) | 3通り |
| 前提 | 人件費単価(円/時間) | 算出値 |
| 費用 | 初期費用 | 見積書の金額 |
| 費用 | 月額費用 | 見積書の金額 |
| 費用 | 社内工数(時間) | 導入・教育・確認 |
| 結果 | 年間の削減額 | 式1 |
| 結果 | 年間の総費用 | 式2 |
| 結果 | ROI(%) | 式3 |
| 結果 | 回収期間(月) | 初期費用 ÷ 月間の純削減額 |
| 判断 | 中止の条件 | 例: 3か月後に削減率が控えめ想定を下回れば中止 |
金額に置き換えにくい効果の扱い
ミスの減少、対応の速さ、担当者の負担軽減は、金額に直しにくい効果です。無理に換算すると根拠のない数字が独り歩きします。次のように、金額とは別の欄で扱うことをおすすめします。
- 件数で書く: 「再確認の往復が月◯件減った」のように、数えられる形にします。
- 時間で書く: 「回答までの平均時間が◯時間から◯時間になった」と記録します。
- 金額に足さない: ROIの分子には入れず、判断材料として併記します。
補助金を使う場合の注意
補助金を前提に試算する場合、実質負担額は「補助対象経費 − 補助額」になります。ただし補助は採択されて初めて確定するため、採択されなかった場合の試算も並べておくのが安全です。
2026年の制度は、中小企業デジタル化・AI導入支援事業(デジタル化・AI導入補助金2026) 通常枠として公開されています。事務局のページによると、通常枠の補助率は1/2以内(令和6年10月から令和7年9月までの間で3か月以上、令和7年度改定の地域別最低賃金未満で雇用している従業員が全従業員の30%以上であることを示した場合は2/3以内)、補助額は1プロセス以上で5万円以上150万円未満、4プロセス以上で150万円以上450万円以下とされています。5次締切は2026年9月29日(火)17:00、交付決定日は2026年11月9日(月)の予定です。条件は更新されるため、申請前に必ず事務局の公募要領をご確認ください。
なお、多くの補助金では交付決定前に契約・発注した経費は対象外とされています。契約の順序も試算の前提に含めてください。
参考にした公的な情報源
- デジタル化・AI導入補助金2026 通常枠: 補助率・補助額・スケジュールの一次情報です。
- IPA「DX動向」: 企業のDX推進状況の調査分析です。効果の測り方を社内で議論する際の背景資料になります。
- 中小企業庁「中小企業白書」: 中小企業の生産性に関する年次資料です。
あわせて読みたい
- 中小企業の生成AI活用 業種別ユースケース表(製造・小売・介護・士業) — 対象業務を決める材料はこちら。
- 中小企業のチャットボット導入 費用の内訳と補助金2026 — 費用項目の分け方はこちら。
- AI導入 補助金 中小企業が使える制度と申請の注意点 — 補助金を使うときの流れはこちら。
本記事は計算の手順と項目の整理であり、特定の削減率・回収期間・採択可否を示すものではありません。試算に使う数値は自社で計測した値をお使いください。
よくある質問
AI導入のROIはどのくらいが目安ですか。
対象業務・件数・人件費単価によって結果が大きく変わるため、目安の数値を示すことはできません。本文の式に自社で計測した値を入れて算出してください。削減率は控えめ・中位・強気の3通りで並べ、控えめ想定でも成り立つかを判断の基準にすることをおすすめします。
作業時間の短縮をそのまま削減額にしてよいですか。
導入後も内容の確認作業は残るため、現状の所要時間がまるごと消えることはありません。試算では「短縮時間 = 現状の所要時間 × 削減率」とし、削減率を控えめに置いてください。実測は、開始・終了の時刻を2週間記録する方法が確実です。
補助金を前提に試算してもよいですか。
補助は採択されて初めて確定するため、採択された場合と採択されなかった場合の両方を並べてください。また、多くの補助金では交付決定より前に契約・発注した経費は補助対象外とされています。最新の条件は事務局の公募要領でご確認ください。